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 立体的「ツラン同盟」の結成を!
    (世界戦略情報「みち」平成17年(2664)11月15日第195号)

●今から六三年前の昭和一六年八月、まさに大東亜戦争における日米決戦の火蓋が切って落とされようとするその直前、本邦ツラン運動の推進者今岡十一郎(いまおかじゅういちろう)は次のように書いた。

 ユーラシアは一體にして、ヨーロッパはその一半島に過ぎず。このユーラシア大陸の枢軸を形造る内陸アジアこそ、一つの系統に属する騎馬民族たるツラン民族に依って住われ、この地帯を通じて欧亜は、文化的にも、民族的にも、連携を保つてゐるのである。而して筆者の狙ひどころは、このツラン大家族體の分析的および綜合的研究を通じて、欧亜を貫く、この厖大なる地帯をつなぐ一連の民族たるツラン同族に對して、『ツランは一つ也』といふ綜合統一的・大民族主義的思想を吹込み、その同族意識を喚起し、さらに一方、わが國民の眼を大陸の彼方、ユーラシアの大平原に注がしめ、その気宇を広大ならしめ、もって雄渾なる民族精神を昂揚せしめんとの意図に基くものである。
 ツラン民族は、決して、ウラル語族とアルタイ語族との平面的羅列ではなく、一つの血、一つの體系に属する言語、一つの生活文化體系に属する綜合的・立體的民族團である。このツラン民族大家族によつて、東は東海に聳ゆる富岳より、西は中央歐羅巴のカールパート山脈にいたる大地が連綿として繋がつているのである。すなはち、『ユーラシアは一體なり』といふ大地域主義的・皇道的・大民族意識を、煌々、歐亜の大地に光被高揚せしめんがためである。
(『ツラン民族圏』「自序」)

 現在ほとんどの人々はこの今岡の言説を、旧時代的な古くさいものだと受けとるに違いない。なぜなら我々が第一次文明戦争に敗北して、敵の文明の価値観を受け容れるように、すっかり洗脳されてしまったからである。
 しかし、対英米戦争が欧亜文明戦争の一環であることを認識していた今岡は、自身その危険を充分に予知していたように思われる。

 しかし、もし依然として従来のごとき、自由主義的民族理論を高唱するものありとするならば、それは、吾人の思想を平面的・個別的・デモクラシー的思想に導き、古きナシヨナリズム的小民族主義に逆転せしめ、而してつひには、大帝国・大民族を分裂崩潰せしむるにいたるは必然である。それは今、吾人の建設せんと欲する立體的・全體主義的・新秩序理念とは、まさに相對立するものである。(同)

●いま改めて「文明の衝突」論がアングロ・ユダヤ文明による世界覇権戦略として提起されたのは、米国による世界覇権が浸透すればするほど、他文明への破壊工作を同時進行させる必要を痛感しているからにほかならない。
 今岡十一郎が鋭くも喝破しているように、第一次文明戦争における彼らの手口は、他の文明に對して平面的・個別的・デモクラシー的思想によって、また「自由主義的民族理論」によって分断・分裂せしめ、互いに相争わせて崩潰せしめることにあった。
 彼らの文明そのものは、欲望と放縦に衝き動かされた侵略剥き出しの奇形的文明であって、およそ成熟した文明とは言いがたい。
●世界には、この奇形文明に對して違和感を抱いている国がほとんどであろう。その中で、まず第一に「立体的」な文明基盤を共通にする国々を糾合して、「ツラン文明圏」をめざす「ツラン同盟」を結成することは、わが日本に課せられた文明的使命である。
 すなわち、ハンガリーからバルカン半島、トルコを含んで地中海・黒海・カスピ海から中央アジア大平原を経て、蒙古、満洲そして朝鮮半島から日本列島へといたる地域の国々、宗教的にはキリスト教カトリック、プロテスタント、ロシア正教、アルメニア正教を含むが、もっとも多くの国々はイスラム教である。だが、宗教の表面的な違いは問題ではない。その内実が問題なのである。「宗教文明の衝突」とは、彼らの新たな分断工作の名称である。これに惑わされることなく、より根源的かつ建設的な文明の基盤に立つもの、それが来たるべき「ツラン同盟」であるべきだ。

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